赤い指/東野圭吾

赤い指
出版社 / 著者からの内容紹介
直木賞受賞後第一作。構想6年の後に書きあげられた書き下ろし長編小説、ついに登場! 身内の起こした殺人事件に直面した家族の、醜く、愚かな嘘に練馬署の名刑事、加賀恭一郎が立ち向かう。ひとつの事件を中心に描き出されるさまざまな親子像。東野圭吾にしか書き得ない、「家族」の物語。
『放課後』でのデビューから数えてちょうど60冊目にあたる記念碑的作品。

(ネタバレ・感想)
 待ちに待った新刊である。
 直木賞受賞後第1作。「放課後」から60冊目となる本書も現在の社会性を風刺するかのようです。

 前原昭夫は認知症の母と実家で同居している。妻、息子を交えて四人暮らし。
 ある日、至急帰ってきてくれと妻から電話がかかる。帰宅するとそこにあるのは、少女の死体。息子の直巳が殺してしまったのだ。悩みながらも隠蔽しようと決意する昭夫。そこから前原家の悲劇が始まるのだが、実は悲劇はもう何年も前から始まっていたのである・・・・。

 テーマは親子。それも2世代にわたる親子である。老人性認知症を抱えた子。そしてさらにその子供。高齢化社会、福祉行政、少年犯罪と多種にわたる問題を抱えた一家の物語を加賀刑事、松宮刑事の親子感も交えて見事な着地を見せたとおもいます。

 「平凡な家庭など、この世にひとつもない。外からだと平穏な一家に見えても、みんないろいろ抱えているもんだ」
 加賀刑事の言葉に今現在の社会性が見える気がしました。

 自分も少なからず関係ないといえない年齢になりました。本書を読んで兄嫁を想像したぐらいですから、似たことなどどこにでもあることなんでしょうね。間違いなく兄嫁は嫌いですから・・・。

 「あれが今の日本家庭の一典型だ。社会が高齢化していることは、何年も前からわかっていた。それなのに大した準備をしてこなかった国の怠慢のツケを、個人が払わされているというわけだ」
 「世の中の多くの人が抱えている悩みだ。国が何もしてくれないんだから、自分で解決するしかない。」
 加賀刑事の言葉はその通りだとは思うのですが、少なからず国の前に個人での解決もまた必要なことの様に思います。
 特にこの前原親子のような状況であればなおさらです。
 「この家には、隠された真実がある。それは警察の取調べ室で強引に引き出されるべきことじゃない。この家の中で、彼等自身によって明かされなければならない」
 親に限ったことではない。根本的な思いやり・・・。表面的な馴れ合いに終始して、それについて心ここにあらずでは誰も救われない。親子であればなおさらであるものを・・・。いつまでも体裁にこだわれば本質は泡と消えて見えなくなる。

 「・・・前原さん、あなたはおかあさんの目を真剣に見つめたことがありますか」
 どの場面を見ても加賀刑事がカッコ良すぎます。「卒業」再読時の人物像の違いが吹き飛びました。

 今回の加賀親子のそれは唯一救われる部分に写るのですが、この心の関係になるためにはどれだけの衝突があったかはわかりません。心のつながり、心に寄り添う二人の関係とはいかなる理解のもとに成しえているのでしょうねぇ・・・。
 小説中の将棋について、加賀刑事が頻繁にメールをやりとりする場面があったので、なんとなく相手は・・・と思っていたら・・・やっぱり。
 かなり嬉しい結末でした。(願わくば、加賀自身の新しい家族の話も・・・・・。)

 お互いが理解し納得している・・・そこにはもはや言葉の壁を介する必要がなくなっているのかもしれませんねぇ・・・。
 それは愛情に対する恩ではなく果てしない程の感謝の気持ちだけがあるからなのかなぁ・・・。
 難しいことだとは思います。それでも、そんな親子でありたいと願わずにはいられない。

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この記事へのコメント

2006年08月01日 17:37
カイさん、今日は。
巨編にはない面白さがあった作品でしたね、『赤い指』。

東野さんは、お父さんのことをよく語っておられますが、それはいつも、互いの強い愛情や絆を感じさせるものでした。
ですから、最後のどんでん返し(?)は、加賀親子というより東野親子の精神的な絆を披露したものだろうと、妄想しました。

また、次の一冊が出るまで、悶々とした日々を送ることになるのですね。
はぁ~。
2006年08月01日 20:14
>加賀親子というより東野親子の精神的な絆を披露したものだろうと、妄想しました。

いやいや、それは妄想ではないかもしれませんよ。読んでいるとき似たような人がいたぞと思っていたんですが、そうですよ東野さんの親父さんですよ。その妄想に一票。

>また、次の一冊が出るまで、悶々とした日々を送ることになるのですね。

そうですね。ちょっと今回も楽し過ぎましたからね。新刊情報待ち遠しいですね。「黒笑小説」のなかに出てくる「虚無僧探偵ゾフィ」が気になっているのですが、刊行されたりはしないですよね。

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